発達障害について
~発達障害傾向を持つ社員を指導する時のポイント~
会社から相談を受けた時の一例
本人は発達障害の傾向について気づいていないこともある
「社員のAさんが少し心配です。」
「なぜですか?」
「他の社員と違うんです。」
「どんなところが違うんですか?」
「例えば・・・
暗黙のルールや社会人としての常識がわからない、話したことをすぐに忘れる、周りと協力することができない、スケジュール管理ができない、注意したらパニックになる、空気が読めない、何回指導しても自分のやり方を変えない、etc.
これは障害なのでしょうか。
本人は発達障害の傾向について気づいていないこともある
会社から相談を受けた時の一例
「指導の仕方に問題はありませんか?」
「#$%&*!!ちゃんと指導しています。
パワハラもしていないし、これまで同じようなことはありませんでした!!!
本人に困っていることがないか聞いても黙ってしまったり、大丈夫と言われてしまって、どう対応すればいいかわからなくて、、、」
発達障害とは?
治すもの、矯正するものではない
生まれもった「脳機能タイプ、特性」である
→「しつけや育て方のせい」は間違い!
→「本人の怠けやわがまま」も間違い!
→右利き、左利き、のようなもの。
→少数派は「不便」
必要な事は、環境調整とスキルやパターンの獲得
医療的介入も時に有効
発達障害の特徴は幼少期から存在
脳の機能の特徴によっていくつかの診断名で区別されている
明らかになる時期は個々で違う
→正確な診断のためには、①~③が重要
① 母子手帳の確認
② 生い立ちの確認(幼稚園・学校・会社での様子など)
③ 診察・心理検査
発達障害には種類があり、それぞれ合併することがある
- 自閉症スペクトラム障害(自閉症・アスペルガー症候群等)
- 注意欠陥多動性障害(ADHD)
- 学習障害(読字障害・書字障害・算数障害)
- 精神遅滞
発達障害には種類があり、それぞれ合併することがある
精神遅延とは?
適応上の問題は思春期以降に、出現することがある
定義
- 知能が有意に低い
- 適応行動の障害を伴う
- 発症は18歳未満
負のイベントが重なると、メンタルヘルス不調に至る可能性がある
精神遅滞の方の特徴
- 行動の規範を守ることが苦手
- 自己客観視が苦手
- 思いやることが苦手
- 自主的に活動することが苦手
- 逃避的な傾向
負のイベント
- 学業不振、いじめ
- 行き過ぎた指導、過剰な期待
- 理想の自分と現実の解離
- 自尊心の低下
メンタル不調時に見られる症状・疾患
- 身体症状(頭痛、めまい、動悸、過呼吸、嘔気、腹痛など)
- 神経症症状(不安・転換・解離・強迫など)
- 不登校、無断欠勤、自傷行為、攻撃行動・逸脱行為
- 適応障害、うつ病、躁うつ病、摂食障害など
自閉症スペクトラム障害とは?
自閉症、アスペルガー症候群など様々な診断を含む幅広い概念
3つの特徴
- 社会性の質的な偏り
- コミュニケーションの質的な偏り
- イマジネーションの質的な偏り
自閉症スペクトラム障害の診断に当てはまるもので
知能は正常だが言葉の遅れのあるもの
→高機能自閉症
知能は正常で言葉の遅れのないもの(3歳までに2語文が出現)
→アスペルガー症候群
社会性の障害の特徴
- 人との関わりが一方的、もしくは受身
- 他者と相互的な関係を持つことが苦手
- 場にふさわしい行動を取ることが苦手
- 暗黙の了解がわからない
- 年齢相応の「常識」が身に付きにくい
- 自分の感情を把握することが苦手
- 感情を共有することが苦手
空気を読むことが苦手!
×「電話応対くらい自分で勉強して」
〇「電話応対マニュアルを見ながら一緒に練習しよう」
×「今忙しいから無理」
〇「今忙しいから30分後に聞きに来て」
社会性の障害の例
- 先輩・同僚・部下に「太ってますね」、「変な服ですね」と外見に関することを突然言う
- 相手が嫌がっていることを読み取れず、やりすぎる(チャット、メールなど)
- 他の人の机の引き出しを勝手に開けたり、他の人の物を勝手に使う
- 物理的な距離感が近すぎる
- 初対面の人に質問攻めにする
- 会議でテーマと関係のない話をする
- 相手の立場によって言葉遣いを変えられない
- TPOに合わせた服装がわからない
社会性の障害に対する指導の仕方
見たままを話す、思ったことを行動に移す、過去に言われたことを実行する
→本人に悪気はなく、なぜ怒られるのか、嫌われるのかわからない
→表面的にわかったように見えても、その理由・内容まではわかっていないことが多い
→「人の気持ちを考えろ!」「失礼だ!」「常識で考えろ!」ではわからない
コミュニケーションの障害の特徴
- オウム返し、独り言、パターン的な言い回しが多い
- 相手の理解度に合わせて話すことが苦手
- 使う単語や話題に偏りがある
- 言葉の音韻に過度の注意が向く
- 抽象概念の理解が苦手
- 文脈を読むことが苦手、字義通りの解釈
- 慣用表現、比喩の理解が苦手
- 緊張、不安な場面でのコミュニケーションが苦手
コミュニケーションの障害の例
- 「もしもし、営業部のAさんいますか?」『います』
「電話を替わってください」『今出張中です』 - 「適当に議事録書いておいて」『...(適当?全然わからない)』
- 話が本題から興味のある方向にずれていく
- 初対面でプライベートなことを聞く・話す
- 相手の状況を考えずに話しかける
- 本人に対する注意指導の際、適当な謝罪や笑顔が見られ、注意指導の理由を理解できているのかわからない
コミュニケーションの障害の指導の仕方
- 「ちょっと」「適当に」「だいたいで」などの曖昧な表現は避ける
→「〇日までにAまで仕上げて」「Bの業務で分からない時はYさんに聞いて」「1日3回9時、12時、15時に在庫チェックして」など具体的に伝える - 本人が相談にきたら「~で困っているということ?」などの解釈を入れる
→仕事のスキルについては、可能な範囲でマニュアル化して伝える
→臨機応変さが求められる接客等については、模範を見せて、パターン別にシュミレーションする
イマジネーションの障害の特徴
- 新しい場所や初対面の人が苦手(緊張・不安が強い)
- いつも通り、予定通りだと安心する
- 見通しが持てないと不安/見通しが持てると集中できる
- 不測の事態、急な予定変更で混乱
- 先のことを予測して行動することが苦手
- 自分のルールを守りたい/人にも守ってほしい
- 目に見えないものを形にすることは苦手
- 覚えること、集めること、並べることが好き
- 興味・関心のあることの知識は膨大
イマジネーションの障害の例
- 社内イベントや飲み会を頑なに拒否する
- いつもと違う通勤経路は緊張し、強い不安を感じる
- 新しい業務に慣れるまで人より多くの時間がかかる
- 昇進しても責任感が乏しい
- 相手の立場で物事を考えることが苦手
- 例え話が理解できない
- 仕事が立て込んでいてもマイペースで仕事を進める
- 因果関係を理解することが苦手
イマジネーションの障害の指導の仕方
- スケジュール変更は前もって伝える
- 業務の優先順位をあらかじめ伝える
- 本人が自身の業務上の役割を十分把握していない時は、文書、資料等を用いて会社が求める具体的なパフォーマンスを説明する
- 他者に悪影響を及ぼさない場合、本人の仕事のやり方やルールはある程度許容する
- 「準備」「開始」「継続」「終了」を明確に示す
→「2週間後からAという業務に就いてもらいます。毎週金曜日15時から30分間進捗状況について報告してください」
その他のサポート
- 会議の録音を許可する
- 手先が不器用でメモが苦手な方もいるため個人用のパソコンの使用を許可する
- 苦手なことの克服に執着しない
- 本人が特性が不利にならない環境を可能な範囲で整える
- 耳栓やパーテーションを使用して感覚刺激を低減する
- 独自の方法でうまくいっている場合は、その方法を認める
- マルチタスクは避ける
- 睡眠が乱れやすいため、過重労働は避ける
- パニックを起こした時は、トイレの個室などでクールダウンすることを許可する
自閉症スペクトラム障害の氷山モデル
注意欠陥多動性障害(ADHD)とは?
ADHD:Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder
定義
- 不注意
- 多動性
- 衝動性
上記が12歳以前に存在し、2つ以上の状況で出現し、社会的機能において障害が認められる。
ADHDの種類
- 多動性-衝動性優位型
そわそわ、もじもじ、たち歩き、暴力、順番が待てない、人が話し終わらないうちに話してまう・・・など
→問題が顕在化する - 注意力障害優位
ボーっとしている、ケアレスミスが多い、忘れ物・なくし物が多い、集中力が続かない・・・など
→おとなしい「お客様」でいること多く、対応が遅れることが多い - 混合型
思考・感情が変化しやすい
感情のコントロールが苦手
- 衝動のコントロールが困難
「 stop → think → action 」ではなく「 feel 即action 」
成人は不注意症状に悩むことが多い
治療のゴールは、仕事や生活の困難さの改善
①心理社会的治療
- 環境調整
- 認知行動療法、行動療法
- ソーシャルスキルトレーニング
薬物療法
- メチルフェニデート(コンサータ~当院では処方できません~)
- アトモキセチン塩酸塩(ストラテラ)
- グアンファシン(インチュニブ)
ADHDの対応の仕方
- 周囲の刺激を少なくする
→机の上に余計なものを置かない、パーテーションの利用 - スモールステップで自信や達成感を得やすい状況を作る
→業務に慣れるまではマルチタスクを極力避ける - 活動的なエネルギーを発散させる
→運動習慣、小休憩時のストレッチ - 1対1のコミュニケーション機会を作る
→上長と一対一で話が出来る機会を意識して作る - パターン化、習慣化する
→todoリストの作成、簡潔な指示 - 集団の一員として意識付ける
→役割を与え、「人の役に立っている」感覚を育む
競争より協力する組織作りが効果的
- 周囲の対応や配慮が不適切な場合に二次的な症状が出現することがある
→自己評価の低下・衝動性の亢進・逸脱行動(頑固な反抗)・抑うつ気分・意欲低下・劣等感など - 未治療の場合、失敗体験を積み重ね、自尊心が低下し、社会的技能も不十分で苦しむことが多い
- 治療により不注意、衝動性、低下した自尊心などは改善し、学習面でも正確性、作業効率などが向上する
無視、説教、不当な評価は行わないように注意する
- コミュニケーションスキルの未熟さに配慮
口が達者でも内面の表現は稚拙な可能性がある
行動と見比べて意味を補って聞く
行動がより多くを語る - 共感性と客観性
共感と客観のバランスが重要 - おおらかさとユーモアを失わない
- 耳より目を使った視覚的な情報伝達
- 言葉で伝えるときは近づいて、穏やかに、具体的に、簡潔に
予定/変更は出来る限り早めに伝える - 集中できる環境を作る
- 遠まわしな言い方、皮肉は言わない
- 「してはいけない」よりも、「こうするといい」という具体例を示す
- 個人の能力をこえた課題は避ける
ミスが起きた時
大きな声で怒鳴ると緊張と不安が高まり、発達障害の特性が強く出現する
お互い落ち着いてから同じことを繰り返さないように対策を検討する
- 名称
- 株式会社 東京こころの産業医事務所
- 代表者
- 関谷 純平
- 設立
- 2020年10月
- 住所
- 〒169-0075
東京都新宿区高田馬場2-14-8
竹内ビル5階 - 最寄駅
- 高田馬場駅
- 電話受付
- 月・金 13:30~19:30
火・水 13:00~20:00
土 10:00~15:00 - 定休日
- 木曜日、日曜日、祝日、夏季休暇、年末年始休暇
03-3202-5560
03-3207-0553